2008年02月14日
性染色体は変異の模索機構~第87回なんでや劇場より~

図のように、人の染色体は46本あり、内44本22対が常染色体、残り2本が性染色体と呼ばれています。常染色体は、父由来、母由来が対となり、互いに同情報を持ち、補完(バックアップ)関係にあります。ところが性染色体では、相同性を失っているのです。女性はXX(ホモ)型で相同ですが、男性はXY(ヘテロ)型で相異。なぜ1組だけ相同性を失ったのか?というのが本日のテーマです。
相同性を喪失したY染色体を中心に見ていきましょう。
●遺伝子変異はY染色体に蓄積
常染色体は、対となる染色体同士が互いに同情報を持ち、一方の遺伝子が破損したとしても、他方で補うバックアップ機能を獲得しています(≒2倍体の安定性)。ところがY染色体は、X染色体と相異の為、組み替えが出来ません。この為、破損やコピーミス等の遺伝子変異がY染色体に蓄積されていくことになります。人とチンパンジーとの染色体比較を行ったところ、ゲノム全体では1.23%の差異であるのに対し、Y染色体上では1.78%の違いが確認されているようです。
●Y染色体には遺伝子の不毛地帯が存在する
Y染色体には、遺伝子の不毛地帯「キナクリン染色領域」が存在します。不毛地帯と呼ばれているのは、意味を成さない塩基配列が繰り返され、生命活動に有効な発現遺伝子が存在しない為です。人のY染色体の場合、実に4割がこの領域。個体の形質として発現しない領域を創り出すことで、そこに破損やコピーミス等の変異遺伝子情報を蓄積している可能性が高そうです。
●免疫力が低い男性
免疫機能に関係する遺伝子の多くは、Y染色体と対になるX染色体上に多く存在します。女性の場合、X染色体が2つある為、互いに補完し合いますが、男性はX染色体が1つの為、免疫遺伝子が不活性だと、すぐさま発病してしまいます。医学の発達で治療出来るようになってきましたが、昔は、病気で死亡する男の子の割合が非常に高かったそうです。免疫力が弱く病気に感染しやすいと捉えるとマイナス要因ですが、一方で外圧を受容しやすい性質と考えることも出来ます。
Y染色体は単なる造精解除機能(SRY遺伝子)だけでなく、変異情報を蓄積する役割も担っている可能性が高い。さらに男性は免疫力が弱い≒外圧を受容しやすい性質であることを併せると、外圧に対する変異可能性の模索がY染色体の役割であると考えられます。
生命は変化する外圧に適応し「変異」することで、種として「安定」していきます。Y染色体は、相同性のメリットである補完機能≒安定性を、敢えて喪失させることで、変異可能性を模索、促進しているのです。
雄ヘテロ型は、人類だけでなく、実は哺乳類全てに共通した型。哺乳類は、雄に変異情報を蓄積させる(=雌に安定性を担保する)方向に舵を切り、進化した生物であると言えそうです。
参考
Y染色体の不思議
性染色体に騙されるな
なぜ、女性は男性よりもの免疫力が高いのか?
ニュートン2006年2月号 性を決めるカラクリXY染色体
おまけ
ちなみに鳥類は雌ヘテロ型。つまり雌に変異情報を蓄積させる方向に進化しています。鳥類は、雌が変異情報を蓄積しつつ、生殖役割も担うという、雌負担の大きい種です。この為、鳥インフルエンザが一気に蔓延しているように、種としての免疫力が弱く、奇形も多いそうです。それでも、敢えて雌ヘテロ型に舵を切ったのは、乾燥適応する為、卵の殻を進化させる必要に迫られたから(=雌の変異を促進する必要があったから)と考えられます。
参考
鳥類の生殖の秘密
- by tanizaki
- at 23:34




comments
染色体奥が深いですねえー。
ところで、Y染色体って短いのに、変異を蓄積ってちょっと不思議?変異がたまると短くなるのかしら?
不要な(≒長い間発現させていない)変異情報は、破棄されていくようです。それで短くなる。
一方、外圧適応への挑戦として、変異情報を個体形質へと発現させる興味深い仮説もあります。
http://www.biological-j.net/blog/2007/11/000342.html
Y染色体にそんな役割があったとは・・・。
昆虫の染色体ってどうなんだろ?種の多様性を考えると、変異情報を蓄積しやすいようになってるのかな。
昆虫の性決定機構は、多種多様で、最新の研究でもまだ整理仕切れていないのだとか。
性染色体で性決定される種もいれば、常染色体で決定する種もいる。さらには面白いことに、共生細菌により決定する種もいるそうですよ。
この内、性染色体で決定している種は、少なくとも染色体の相同性を喪失してわけで、性染色体に変異情報を蓄積している可能性は高そうですね。
「人類」までの探求からは少し逸れますが、比較対象として追求してみるのも面白いと思いました。
http://www.jsps.go.jp/j-rftf/inkai/miraikaitaku1.html
>不要な(≒長い間発現させていない)変異情報は、破棄されていくようです。
おおー。そうなのですか。それで短くなってしまうわけですね短かいのは適応可能性に収束している証なんですね。
そのうちなくなってしまうと言われているのも納得です。
でもなくなったら変異情報はどうなる?むずかしいですねえ。