2008年01月02日
Y染色体を持たないネズミ
今年は子年。ということで、新年2日目の今日はちょっと変わったネズミを紹介します。
![]()
これは、日本にいるトゲネズミという絶滅危惧種のネズミ。
なかなか可愛らしいこのネズミ、何が変わっているかというと・・・
なんと、哺乳類では唯一、Y染色体を持たない動物なのです。
ご存知のように、哺乳類は大きさの異なるX型とY型の性染色体を持ち、性染色体の組み合わせがXYならオス、XXならメスになります。これは、Y染色体上にあるSRY遺伝子という遺伝子の発現が、哺乳類の体をオスに作り上げるためのスイッチを担っているためと考えられています。染色体の総本数やX染色体、Y染色体の大きさは種によって違っても、XY=オス、XX=メスという仕組みは哺乳類共通です。トゲネズミだけが、この哺乳類の性決定のセオリーから逸脱しているのです。
バッタなどの昆虫類も、Y染色体を持たない『XO型』と呼ばれる性決定システムをとっていますが、トゲネズミはこれらの昆虫のタイプとも違います。
XO型は、性染色体の組み合わせがXXならメス(ここは哺乳類と同じ)、Xだけならオス、という仕組みです。つまり染色体数の合計が偶数ならメス、奇数ならオスということです。しかし、トゲネズミの染色体数はオスもメスも同じです。
そう、トゲネズミは、染色体の数がオスもメスも奇数、という動物なのです。
(ちなみに、奄美大島にいるアマミトゲネズミは染色体が25本、徳之島にいるトクノシマトゲネズミは染色体が45本)
オスもメスもY染色体がなく染色体数が奇数となると、次のような2つほどの疑問が出てきます。
①減数分裂→受精で染色体数が合わなくならない?
精子・卵子をつくる時、一般には減数分裂によって染色体数が半減しますが、染色体数が奇数の場合は、正確には染色体数の違う精子・卵子ができることになります。ところが、受精の過程でこれがランダムに組み合わされば、染色体数の違う受精卵が3種類できてしまうことになるのです。例えば染色体数45本のトクノシマトゲネズミだと、
雄:精原細胞(2n=45)→減数分裂→n=23の精子A と n=22の精子B
雌:卵原細胞(2n=45)→減数分裂→n=23の卵子A と n=22の卵子B
これらが受精すると、
精子A+卵子Aなら2n=46、精子A+卵子Bまたは精子B+卵子Aなら2n=45、精子B+卵子Bなら2n=44
と、総染色体数が3種類の個体ができてしまうことになります。
実際のトゲネズミの生殖では、受精までは上記のように進むけれど、2n=46と44の受精卵は成体まで育たないのだそう。受精までの配偶子の生存確率や受精確率に染色体数による偏りがないとしたら、受精卵の半分は無効になる計算ですね。そして、2n=45になる場合は、精子A+卵子Bでも精子B+卵子Aでもどちらでも良いのだそうです。
②オスかメスかはどうやって決まってるの?
これは、現在の生物学ではまだはっきり分かっていません。トゲネズミには一般の哺乳類でオス決定遺伝子と考えられているSRY遺伝子がどこの染色体にも存在していないのです。
北海道大学の研究 では、通常のXY型の性決定を行う近縁種オキナワトゲネズミ(2n=44)との比較から、奄美や徳之島のトゲネズミは進化の過程でY染色体をSRY遺伝子もろとも消失し、新たに何らかの性決定遺伝子を獲得したとの仮説を立てていますが、その逆も考えられ、まだまだ追求が必要だと思います。
一つ言えるのは、どうやら哺乳類といえども、雌雄決定の仕組みはY染色体があるか無いか、或いはただ一つの遺伝子があるか無いか、という単純な代物ではなさそうだ、ということです。
- by s.tanaka
- at 19:08




comments
Y染色体を持たない哺乳類がいるとは、びっくりです!
トゲネズミのオスメスってほんとどうやって決まるのでしょう?今後の研究が気になります。
性決定において、染色体を重視してきたけど、こういった事例をみると、性決定には、他にも様々な要因がありそうですね。
NHKスペシャル(シリーズ女と男~最新科学が読み解く性~)の第3回でこのねずみが紹介されたのを見てから、この生物が気になってこちらを訪問しました。
勉強になりました。
>さんぽさん(遅くなりました) 某ママさん コメントありがとうございます。
NHKスペシャル私も見ました。人間のY染色体も今にも消滅するかも知れない、という話でしたね。
あの番組の解説も、「トゲネズミがY染色体を失っても性が無くならないのは、SRY遺伝子に変わる新たな性決定遺伝子を獲得したためで、奇跡に近い(人間はそううまくいかない)」という、脅しみたいなものでしたが、あれには疑問を感じています。
性染色体が登場する以前から性が生物進化の原動力であるのは間違いなく、である以上、性自体がそう簡単に消滅するとは考えにくいからです。
機会があればその辺りも改めて追求してみたいと思いますので、ぜひまたお寄りください。